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JST/JICA:地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)

低炭素社会の実現に向けた日本・タイ・インド合同シンポジウム 

2022年1月25日、低炭素社会の実現に向けて取り組む本プロジェクトとインドのプロジェクトが合同シンポジウムを開催しました。両プロジェクトともに、最新の情報通信技術を使い、深刻な交通渋滞を解消し人々が住みやすいスマート交通戦略を作り、低炭素社会を目指しています。シンポジウムの目的は、両プロジェクトの知見を交換すること、研究成果を社会へ届けるための今後の課題について討論し道筋を模索すること、そして研究ネットワーク強化です。オンラインで開催された4つのセッション:概要紹介、評価手法と将来像の設定手法、データ収集と分析方法、パネルディスカッションに、3か国のプロジェクトメンバーや若手研究者たち、JICA、JST、関連する公共セクターと民間セクターから、計114名が参加しました。

インドのプロジェクト「マルチモーダル地域交通状況のセンシング、ネットワーキングとビッグデータ解析に基づくエネルギー低炭素社会実現を目指した新興国におけるスマートシティの構築」(以下M2Smart)からは、インド工科大学ハイデラバート校、名古屋電機工業株式会社、日本大学などが活動を紹介しました。交差点に設置した高精度CCTVやドローンで撮影した交通状況のセンシング技術、車だけでなくリキシャ―など多様な交通手段を検出・解析しリアルタイムに伝送するネットワーク技術、莫大な交通ビッグデータを解析する技術や情報板Variable Message Sign (VMS)を使い市民に伝える技術、それら技術をアーメダバード市で実証実験し、スマートシティ構想としてハンドブックにまとめる活動が紹介されました。

一方、タイの本プロジェクトは、林良嗣プロジェクト研究代表(中部大・卓越教授)が、人々のQOL向上を目指したスマート交通戦略を開発するプロジェクト概要を紹介しました。続いて、スマート交通戦略の政策パッケージとなる”Sukhumvit Model”にQOL評価手法を反映した事例を、タマサート大のDr. Pawineeが報告し、同Sukhumvitモデルの将来像となるバンコクのシナリオ開発アプローチとドラフトを、チュラロンコン大のDr. Apiwatが発表しました。

詳細技術の紹介セッションでは、QOL向上を実現する具体的なツールの一つとして開発している、バンコク市民へ行動提案するQOL-MaaSを中部大Dr. Witsarutが発表しました。また、電気自動車を使いバンコク中心部で社会実験中のSSVSの進捗について、土井教授(大阪大)が報告しました。チュラロンコン大のDr. Pittipolは、AIによる車両や歩行者など画像認識モデルとQOLスコア化の応用について発表し、カセサート大のDr. Varamethは、バンコク都の今と未来の土地利用をシミュレーションするコンピュータモデルを報告しました。これら研究成果を可視化し、市民の生活スタイルや政策者の意思決定に役立つデジタルアースシステムについて、福井教授(中部大)が報告しました。

パネルディスカッションでは、林研究代表は、本プロジェクトが社会へ提案しようとしているのは、効率性ではなく充足性という指標であり、その指標は幸福度であるQOLを地球に対する負荷である二酸化炭素量で除して示すことができることを強調しました。この新しい考え方を伝えるために、本プロジェクトが取り組もうとしている具体的なアプローチを、対象を市民と政策者に明確に分けて林研究代表は提案しました。一方、プロジェクト最終年度にあるインドM2Smartの坪井務研究代表は、モノからコトを起こすことが課題であり優先行動である点を強調しました。

本プロジェクト・ダイレクタであるタマサート大Thanaruk教授は、ポスト・コロナの社会など変化を見据えつつ、進化する技術の光と影に注意しながら、タイも積極的に国を超えて同分野の研究を発展させ取り組むことが課題であると提言しました。最後のパネリストとしてDr. Apiwatは、両国に共通するであろう3つの課題、気候変動、新たな価値を産む技術革新、不公平をあげ、前者2つの解決には両プロジェクトは答えつつあるように思えるが、不公平さは大きな共通課題であると示唆しました。社会的な格差があるゆえ最新技術にアクセスできない貧困層、例えばインターネットから高度なデジタルサービスやインフラにアクセスできない人々がいることを配慮しながら、人々のQOL向上に取り組むことの重要性を投げかけました。シンポジウムを締めるコメントとして、JST環境・エネルギー分野の神本正之研究主幹から、特に政策に関わるステークホルダーに向けて難解な研究成果を工夫してわかりやすく伝えることが重要である旨、示唆いただきました。本シンポジウムを通じて、研究ネットワークが拡大強化され、アジアに水平展開する新たなプロジェクトのアイディアが創出される可能性と気運も高まりました。

当日のダイジェスト動画はこちらからご覧になれます。