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JST/JICA:地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)

2018年度研究成果

2018年度の概要

 2018年6月14日に日本・タイ双方の研究チームがバンコクに集まりキックオフミーティングを開催し、本プロジェクトの国際共同研究期間が始まりました。

 2018年度は4つの研究題目・活動を設定し、各研究グループが、共同研究者や関係機関等と研究体制構築や基礎となるデータの収集、評価手法の検討等を進めました。

  • Group1「土地利用と交通を統合したリープフロッグ型都市デザイン」
        (リーダー:香川大学 紀伊雅敦教授)
  • Group2「公共交通の接続向上及びStreet for all を実現するスマート交通・街区デザイン」
        (リーダー:大阪大学 土井健司教授)
  • Group3「居住者のQuality of Lifeによる都市政策マルチスケール評価システム」
        (リーダー:中部大学 林良嗣教授)
  • Group4「デジタルアースシステムによる統合的可視化、意思決定支援システム」
        (リーダー:中部大学 福井弘道教授)

Group1「土地利用と交通を統合したリープフロッグ型都市デザイン」

 Group1は,道路整備シナリオとトランスモーダルシナリオを比較し、それが都市構造と人々の生活に及ぼす長期的な影響を分析し、都市・コミュニティにおける環境持続性、包摂性等、SDGs の達成の道筋すなわちリープフロッグ型都市戦略を示すことを目的としています。

 2018年度は、利用可能データ整理、入手、およびタイ行政機関との対話による土地利用・交通デザインの要求事項の整理を行いました。利用可能データについてはGroup2、Group4の協力のもと、バンコク都市圏の交通行動調査データ、建物等の空間データを入手し、モデルで活用するための整理を行いました。また、タイ側研究者のKasetsert UniversityのVarameth准教授を通じて行政機関との対話を進め、本研究課題への実務的視点をフィードバックするうえではMass Rapid Transit Authority (MRTA)と連携することが有効であることを把握しました。

 タイ側研究機関のKasetsert Universityには移動パスのマイクロシミュレーションモデルであるMATSIMのコードを提供しており、バンコクを対象とした仮条件下でのシミュレーションの実施が可能となるように技術移転を行いました。また、Group4の宮崎氏の協力のもと、Asian Institute of Technologyとも交通分析の協力体制を構築し、情報を共有するとともに、適切な分業体制の構築を進めるなどの日タイの連携を進めました。

Group2「公共交通の接続向上及びStreet for allを実現するスマート交通・街区デザイン」

 Group2は、多層の要因からなるバンコクの渋滞メカニズムを明らかにするとともに、情報システム、モビリティサービス、空間デザインの3つの視点から次世代型のスマート交通・地区デザインを提案することを目的としています。

 2018年度は、渋滞メカニズムの解明のために、バンコク中心部に位置するAsok交差点における自動車の運転挙動シミュレーションモデルの構築を行い、渋滞要因の抽出や各種渋滞対策による効果検証のためのプラットホームを作成しました。また、iTIC(The Intelligent Traffic Information Center Foundation)が公開するプローブデータを取得し、バンコク都心部における面的な渋滞状況の把握を行うとともに、渋滞メカニズムやボトルネックの抽出を行うための分析モデル構築に着手しました。

 モビリティサービスの観点からSSV(Smart Small Vehicle:小型モビリティ)を用いた端末交通システムのあり方について、現地コンドミニアム等へのヒアリングを実施し、端末交通に期待する機能やニーズ、実施上の課題などについて確認を行いました。

 空間デザインの観点では、Walkabilityに着目し、VR評価実験を通じた歩行挙動とその歩行空間デザインに対する歩行ニーズの評価モデルを構築しました。また、webアンケートを実施し、Walkabilityに対するタイ居住者の価値観を把握しました。タイ側研究機関への技術移転として、VR評価実験の機材をKasetsert Universityに提供し、バンコクの学生に対する歩行空間評価実験を進めました。

Group3「居住者の Quality of Life による都市政策マルチスケール評価システム」

 Group3は、移動する手段により享受可能なQOLと、それが排出する温室効果ガス等の社会的コストの比率であるファクター(QOL/社会的コスト)による土地利用・交通システム評価手法の開発およびファクターを最大化するライフスタイルを提案するシステムの構築を目的としています。さらに、個人の交通行動を超えたライフスタイル変容を促すための政策の提案およびその誘導効果の評価をねらいとしています。

 ライフスタイル変容効果の評価には、これまでグループリーダーらが開発してきた居住地に基づくQOLの評価手法のみでは十分とはいえないため、2018年度は、移動時のQOLの評価手法を検討しました。具体的には、バンコクにおける移動時の典型的な動画・画像への被験者の主観的なQOL評価を教師データとしたAIモデルを用いた、QOLに影響を与える要素を抽出する手法の検討を進めました。この手法の構築にあたり、QOLに影響を及ぼす対象の特定が必要となりますが、タイ特有の交通手段(Tuk tuk等)も含めてAIが識別できるようにデータベースを増やす必要があるため、それらの画像を自動的に取得して学習するためのAIシステムを考案し、道路の損傷の種類と度合い等を自動的に判別可能なAIシステムの構築を行いました。

 タイ側の研究代表者であるThammasat UniversityのThanaruk 教授と、AIの専門家であるChulalongkorn University の Boonserm 教授と議論を交わし日タイの連携を密にして、上記評価手法の構築を進めました。また、タイ側におけるAIを用いたQOL評価システムを運用するにあたって必要となるディープラーニングサーバシステムをThammasat UniversityとChulalongkorn Universityに各々一式ずつ導入し、技術移転を進めました。

Group4「デジタルアースシステムによる統合的可視化、意思決定支援システム」

 Group4は、バンコク全体において、都市の基盤となる土地利用や地形、インフラである道路ネットワークや建物情報、さらにその上で活動する人の情報である各種交通プローブ情報やマイクロジオデータ等それぞれの時空間情報を蓄積するシステムを構築し、各グループでの検討結果等のデータの集約およびシームレスな可視化を通じた意思決定支援システムの構築を目的としています。

 2018年度は、PDMのOutputsに記載のデジタルアースによる可視化基盤の構築と、Activitiesに記載の各種データ環境の整備を行うために研究活動を行いました。土地利用に関するマイクロジオデータの開発・整備(PDM Activities 4-2)に関しては、BMAをはじめとしたデータプロバイダとの調整、およびスクンビット地区におけるマイクロジオデータ構築のための基本設計を行いました。また、移動体ビッグデータ解析システムの開発と取得(PDM Activities 4-3)に関しては、低コストGNSS(Global Navigation Satellite System:全球測位衛星システム)を用いた位置情報プローブを取得する機材を試作しました。さらに、デジタルアースシステムによる統合的可視化(PDM Activities 4-5)に関しては、Group1,2,3の成果データ、およびGroup4が収集したデータをデジタルアース上にマルチスケールかつシームレスに可視化し、共有するための基盤として用いる3次元空間都市データを、スクンビット地区等を対象に取得するための機材調達を行い、データ構築を開始しました。

 タイ側の研究機関(Asian Institute of Technology、Thammasat University)に、PDMのOutputsに記載のデジタルアースによる可視化基盤の構築と、Activitiesに記載の各種データ環境の整備を行うための技術の概要と研究の進捗を共有し、共同開発および技術移転を進めました。